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FROM ME TO YOU

oh my bizarre life !!

「旅のラゴス - 筒井康隆」を読んで

旅のラゴス (新潮文庫)

旅のラゴス (新潮文庫)

筒井康隆の作品の中では異色とされている「旅のラゴス」を読んだ。 とは言うものの僕は氏の作品は「時をかける少女(他短編)」しか読んだことがないので、どこが異色なのかはわかりません。 なので他作品との比較ではなくこの作品自体の感想を書きたいと思います。

北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。(作品紹介より)

「集団転移」「読心術」「壁抜け」「空中浮揚」「旧世界の失われた知識」などのSF要素もあるもの、おまけ程度の位置付けでしかありませんでした。ラゴスという男が数十年をかけて旅をした彼の人生そのものが物語となっていて、読んでいる自分もラゴスになったように彼の人生を一緒に歩んでいるような感覚にしてくれます。 226ページという比較的短い作品ですが、その中にラゴスという男の数十年に渡る人生がしっかりとえがかれていました。

宮崎駿が映像化を希望した…なんてエピソードもあるらしいですが、確かにジブリ作品にしたら素敵だろうなと思わせる世界観でした。作中に出てくるスカシウマなんてヤックルそのものですし、宮崎駿氏の「シュナの旅」を想像しながら読むと楽しいかもしれません。

この作品では一年や二年という月日があっという間にすぎていきます。「運搬用の昇降機や車が主要坑道に備えられるまでには約二年半の歳月を要した」「法理論の体系づけに私は一年以上を費やした」「わたしはいつしか六十を過ぎ、もうすぐ六十四歳になろうとしていた」など、たった1行あまりで数年単位の月日が流れていったりするのも珍しくありません。 少年漫画には何十巻と続けているのに作中では一年も経過していないような作品もありますが、実際の人生では一ヶ月や一年なんてあっという間に過ぎていったりしますし、人生ってこんな物なんだろうなぁとしみじみと考えてしまいました。

この物語はラゴスの一人称で書かれているのですが、最初は「おれ」だった自称も年を重ねるごとにいつの間にか「わたし」になっていったり、周囲の風景や出会った人物のことを細かく記していた若年期にくらべ、老年期は内面的な自分自身への問いかけが増えていくなど、読んでいる間は気づかなかった細かな配慮も憎いです。 ラゴスの旅の目的も最初は自分のため、壮年期は世界や社会のため、最後はまた自分のためとまさに人生そのものと言えるのかもしれませんね。

自分自身、人生の転換期でもある三十歳を迎えたばかりのこの時期にこの本に巡りあえてよかったと思います。 これまで歩んできたこと、これから歩みたいこと、それらをもう一度考えなおしてみたいと思いました。

最後に余談ですが。 旧世界の知識を元に現在世界に産業革命をもたらす…という設定は今アニメにもなっている「まおゆう」と非常に似ている気がしました。「旧世界の知識(書物)が残る図書館」という設定もまおゆうの「瀬良の図書館」の元ネタになっているのかもしれません。まおゆうはアニメ組なのでまだ途中までしか見ていませんが(放送中なので)、オーバーテクノロジーとも言える新たな技術を惜しみなく導入した魔王と違い、ラゴスは社会自体の進歩を促す程度に抑えようとした点に関心しました。

産業革命というのは実際には「革命」と呼ばれるほど短期間に行われるものではなく、制度の改革は本来ならばその後何十年にもわたって段階的に行われねばならぬものであった。わたしはじぶんの性急さを恥じた(旅のラゴス – P202抜粋)

もちろん魔王もそのリスクは十分に感じていることでしょうし、その点に関してはうち言及があるでしょうが…とこれ以上書くと読書感想記事ではなくなってしまいそうなので、別のエントリにした方が良さそうですねw