- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/12/25
- メディア: 文庫
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私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」(本文より)
「四畳半神話大系」に引き続き、森見登美彦の「夜は短し歩けよ乙女」を読了。
四畳半と同じく京都を舞台にして、うだつの上がらない男子三回生の「私」と好奇心の塊みたいな天然系女子大一回生の「私」の二人のちょっと不思議で甘酸っぱい恋愛模様を描いた青春ラブストーリー。
四畳半神話大系と同じ京都が舞台ということもあり、四畳半に出てきた「樋口さん」や「羽貫さん」といった癖のある魅力的な面々も登場したりします。 僕はこの「違う作品なんだけどどこかシンクロしている」という設定が大好きで、ついついニヤニヤしながら読んでしまいました。 前回の四畳半は4つの並行世界を描く4話構成でしたが、今回は4つの短編ストーリーという構成。先輩である「私」と後輩の「私」のストーリーがそれぞれ一人称で語られる構成も面白かったです。
第一章 夜は短し歩けよ乙女
夜の木屋町を舞台とした飲兵衛達のどんちゃん騒ぎ。登場人物が少し多いものの、全員が全員とも隠れた繋がりがあって何度も膝を叩きながら読んでいました。こういう話の構成をさせるとこの作者は天下一品かもしれません。とにかくハチャメチャなくせに最初から最後まで綺麗にまとまっていて、あっという間に読み終わってしまいました。
僕はこれまでお酒を飲むことにあまりいいイメージがなかったんですけど、これからは楽しくお酒を飲むのもいいかもしれないと思ってしまいました。
第二章 深海魚たち
下鴨神社で開かれる古本市を舞台にしたちょっと不思議な本めぐり。あまり古本には馴染みがなかったのですが、一度古本市を覗いてみたくなりました。
第三章 御都合主義者かく語りき
学園祭を舞台にした彼女と私のドタバタ劇。彼女の天然っぷりが思う存分発揮される一話です。四話の中ではこの話が一番好きかもしれない。とにかく彼女が可愛い。その一言に尽きる。
第四章 魔風邪恋風邪
京都に蔓延した奇妙な風邪のせいで登場人物がみな床に伏せるなか、一人元気な彼女はどういった行動にでるのか… ラストに向けたスピード感あふれる一話。このタイトルの意味がわかった時も思わず膝を叩いてしまいました。
総括
四畳半神話大系と今回の夜は短し歩けよ乙女を読んでこの作者のファンになってしまった僕ですが、どうやらこの作者の擬音表現に弱いようです。
「むにゅっとしました、むにゅっとしました」 「なむなむ!」 彼女はふくふくと笑って「ご一緒します」と答えた。 暖房がぬくぬくと効いていて
なんとなく心が暖まるというかほっこりするというか。この作者の文章はするすると心に入ってきてなんだか暖かい気持ちにしてくれる気がします。このふんわりとした表現で描かれる「彼女」の可愛いこと!あっという間にこの「彼女」に夢中になってしまいました。とにかく可愛い。この一言に尽きます。
次はこの作者のデビュー作である「太陽の塔」や「宵山万華鏡」「美女と竹林」を読む予定ですが、ちょっと本屋で立ち読みしてみたら文体が結構変わっていたのが気になるところ。四畳半やこの夜は短しのほっこりした文体が好きだったのに、少し残念かも。もう一度四畳半と夜は短しを再読してから挑むことにします。
あ、そうそう。僕のこんな感想を読むよりも下のリンク先を読んだ方がこの作品の面白さは100倍くらい伝わる気がしますので、ぜひ。